発掘作業を眺めていたツヴァイは、あまり聞き慣れない音に振り返りました。
ちょうどエルファンが、ガレキの隙間に逃げ込んだらしい小動物を、ガレキごと引き裂いたところでした。
「爪...割れないように...気をつけてね...マネキュア塗る?」
「にゃっ? これエルファンの本物の爪じゃないにゃ」
「本物...じゃない...の?...........」
試しにつっついてみます。
「みにゃっ!? ち、違うにゃぁ。本当に本物じゃないですにゃ」
それならと、ツヴァイが言いかけた時――
唐突に小動物が物凄い速さで飛び出してきました。隙をうかがっていたのです。
「にゃっ!」
タイガークローの一撃。
音にならない悲鳴を上げて、小動物が地面に投げ出されます。それっきり、ぴくりとも動きません。小さな金属片が辺りに散らばってしまいました。
「.....!」
「え、何があったの? エルファン、勝手に壊しちゃダメじゃない」
「ごめんにゃ。生き物だと思ったにゃ……」
瓦礫に埋もれた白骨死体を通り過ぎると、辺りは一段と暗くなりました。視界がちらちらします。灯かりが消えかかっているのです。
「しろさん、崩れたら逃げるにゃ」
「そうするみゃ?」
一行は不安を抱えたまま、寺院の最奥に向かいます。しろとエルファンを先頭に、シャンティ、ツヴァイと続き、最後尾に恐る恐る調査団がついてきます。
やがて、一行をするどい寒さが襲ったかと思うと、灯かりがフッと消えました。
ゴーストです。彼らは人間の恐怖心を煽るのが得意です。
エルファンの思った通り、最後尾にわらわらと出現するゴーストたち。
「で、出たぁぁぁっ!」
「うあぁぁぁあぁ……」
かなり近くから、やたら生々しい叫び声も上がりましたが、エルファンは聞かなかったことにしました。
「知らない魔物さん、覚悟するにゃっ!」
(Lv4 エアルーン寺院 : クリア)
一人の年老いた男が姿を見せます。調査を執拗に妨害し、一行を苦しめた張本人です。
「魂を差し出す気になったか…。ククク…。」
ツヴァイは調査団をちらっと見ました。
「....いない...」
「まさか逃げたのかしら。道に迷ったら大変……捜してくるわ」
「お願いみゃ」
男はこちらを睨み付けて叫びました。
「誰も逃げられぬわ!」
「フーッ かかってくるにゃ!」
その言葉を合図に、戦いが始まりました。
ガラードの放ったダークストームに一瞬、視界を奪われます。
しろとツヴァイは構わず銃を連射します。
エルファンは飛び出しました。真っ直ぐ、祭壇に向かって。
もちろんそれを見逃すガラードではありません。二体のドリームイーブルを操り、体当たりを仕掛けます。これで猫耳は麻痺して倒れる……はずでした。
「効かないにゃ!」
耐性の指輪がうまく弾き返したようです。
「エルファンみゃん!」
「にゃっ!」
すぐさま方向転換すると、ドリームイーブルの横に回り込んだしろとタイミングを合わせます。
集中攻撃!
!!
これには耐え切れず、消し飛びました。あと、一体。
ガラードがこちらに振り向く頃、ツヴァイはもう一体のモンスターに正確無比な射撃を浴びたところでした。
「.........HIT....」
間を置かず、エルファンの爪が閃きます。
一撃、二撃。
ΞΛΛΛ!
奇怪な悲鳴を上げると、ドリームイーブルは闇に消えました。
それでも当のガラートは、余裕の表情です。彼は祭壇の側から一歩も動いていません。
彼に対する攻撃は、ほとんど当たっていないのです。当たっても、それほどダメージは無いのか、平然と構えています。
「効いていないみゃ」
「........ッ...」
「ミサイルをよけるなんて反則ですにゃ」
数を撃てば、そのうちのいくつかは命中します。しかし、既に残弾がほとんどありません。
この時を待っていたかのように、ガラートが動きました。
まっすぐ白猫を目指します。
しろは、ヴィングトールを構え直して残弾をすべて撃ち込みます。ガラートは――まだ倒れません。
数拍で間合いを詰めると、どこに隠し持っていたのか、爪をかたどった漆黒の武器で白猫を切り裂きます。
!!!
ジャケットを着用していても、これにはひとたまりもありません。
エルファンは何もできませんでした。
……
爪も使いこなせないのに……
誰かを護ろうとするから……
「さあ、お前の魂も私が貰い受けよう!」
エルファンは……
「そんなの嫌にゃ……」
にゃぁぁぁっ!
ガラートを目指します。
彼は咄嗟に飛び退こうとしましたが、間に合わないと知ると、再び武器を構えます。
一撃。
漆黒の爪が目前に迫ったエルファンを切り裂きます。しかし、猫耳を止めることはできませんでした。
猫耳の爪が二つの軌跡を描き、呪術士の身体にいくつもの光の筋を形作ります。彼は信じられないという表情で、こちらを睨み付けます。そして――
悲鳴を上げることもなく――
呪術士の身体が、ゆっくりと倒れました。
「猫耳族は……悲しい生き物ですにゃ……」
勝敗は決したのです。
街に戻った一行は、傷付いた白猫を病院に運びました。
「しろさん、へにゃ〜んとしてるけど、大丈夫にゃ?」
「無理し過ぎたのかしら……」
ガラートとの戦いで負傷し、猫はぐったりとして動きません。
病院の人は言います。
「絶対安静です。当分の間、冒険などは控えてください」
「ごろごろするのはダメかにゃ?」
「それも駄目です」
エルファンは今日も猫神様にお祈りをします。
――しろさんが良くなりますように。
キャンディとネズミのしっぽを御供え物にします。
――エルファンはいつまでも待っているにゃ。
(Lv4 エアルーン寺院(ボス) : クリア)
「はぁ……」
溜め息をついています。調査団の人です。
ちなみに、エルファンは何も悪くないですにゃ。
「がんばるにゃ。もう一度挑戦するにゃ」
「お前は気楽でいいよなぁ」
説明するにゃ。
道に迷った調査団の人は、ゴーストたちに追われて丸3日間も逃げ続けていたのです。命は助かったけれど、みんな怪我をしてしまったにゃ。それで一度街に戻ったのですにゃ。
「……待て。一番大事なところの説明を省いたろ、今」
「そ、そんなことないですにゃ」
すりすり。
でも冷や汗たらたらです。
エルファンたちは、怪我をしたしろさんを早く運ぶために、調査団の人よりも先に街に戻ったのです。見捨てたとか、そんなんじゃないですにゃ。たぶん。
……みんなの視線が冷たいですにゃ。
(Lv4 エアルーン寺院 : クリア)
「...........喉..撫でたら...........ごろごろいう?」
「ごろごろごろ…」
……にゃはっ!?
(Lv4 エアルーン寺院 : クリア)
「毎日食べ物をさがすのも大変ですにゃ」
「食べ物を探す…って。エルファンは毎日どうやって食事してるの?」
「……それはとても言えないですにゃ」
人間にもらっているなんて、とても言えないですにゃ。
「言いづらいなら無理には聞かないけれど。……アップルパイ、食べる?」
「言いづらいというかその…… ご飯おごってもらうことが多いですにゃ。アップルパイは食べるにゃっ!」
嘘は言ってないですにゃ。
「そうなの。言い渋るからてっきり…。それよりアップルパイ、どうぞ」
「ありがとうにゃ♪」
(Lv4 エアルーン寺院(ボス) : 引き分け)
「しまったにゃ!」
エルファンは愕然とした。今更ながら重大な事に気付いてしまう。
「……日記を書いていなかったにゃ……まずいにゃ。このままじゃあ……」
お仕置き♪
「……はぅっ」
思わず卒倒した彼女のすぐ側に、≪浮空艇≫が音もなく着陸する。
地に降り立った――スラリとした長身で、長い黒髪の――女性が声をかけてきた。アーマー保守会社「エルフサービス」の研究グループの一人で、エルファンの直接の上司にあたる人物だ。普段は黒のサングラスを付けているが、今日は外している。
「エールファーン。日記をずぅぅぅっと書いていないみたいだけど、どうしたのかしら?」
「うにゃぁぁっ! お仕置きは嫌にゃぁぁぁっ!」
悲痛な叫び声を上げるエルファン。
「……ええと。ちょっと、あんまり痛々しいからお仕置きは勘弁してあげるけど、それより貴女にお迎えが来たの……もう知ってる?」
猫耳はやっと我に返った。
「にゃっ? 知らないですにゃ」
よく見ると、上司の乗ってきた≪浮空艇≫から、もう一人降りてくるではないか。
「にゃぅ」
エルファンは思わず鳴いた。
そわそわして、どうも落ち着かない。
艦内は非常に静かである。ありがちな機械音が全くないというのも、オーナーのこだわりなのだろうか。窓の外はほぼ真空だから、外から伝わってくる音もない。
エルファンはふかふかのベッドの上でごろんと横になっても、まだ地上のことが頭から離れずにいた。気分が晴れない。もやもやしたものが、ずっと引っ掛かっているのだ。
「もう離れたのかにゃ」
『本艦は惑星引力圏を既に離脱。恒星の重力を利用して加速中』
即答するコンピュータに、もう一度訊ねる。
「まだ離れたわけじゃないにゃん?」
『レーダーで確認可能な距離です』
部屋に備え付けられた窓に跳びつく。が――どこをみても暗黒の空が広がるばかりだった。
「エルファン?」
声をかけられてはっと気付いた。
振り向くと、巫女姿の女性がそこに立っていた。気配は無かったはずだが、いつから部屋にいたのだろうか。
「もう少し遊びたかったのは、エルファンのわがままかにゃ」
答えは決まっていた。
これから為すべきことも。
ただ、自分の昔の姿を重ねてみると、この猫耳の気持ちは痛いほどよくわかるのだ。
「寂しさを感じているの?」
「お別れするのは辛いにゃ。エルファンは嘘つきになったにゃ」
涙を浮かべる彼女を、巫女姿の神は抱き上げた。
「ごめんねエルファン」
「にゃぅ……」
「ん…… ちょっとだけ、体重増えたかしら」
エルファンは腕の中で暴れて抗議した。
(Lv4 エアルーン寺院 : クリア)
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