いつものように探索して館を一周して帰ってきたにゃ。
他に書くことあんまりないにゃー。
「…エルファンって同じこと書くのが好きなの?」
これからもこんな毎日が続くといいにゃ〜
あう、ちょっと体重が増えたかもにゃ。
アーマーを替えたのです。アサシンという名前らしいです。かっこいいですにゃ。
とても高かったから、壊さないように使うにゃ。
館はいつも変わり映えしないですにゃ。
それにモンスターしかいないのは、どうしてにゃ……。
街に戻ってきました。
最近暑かったのに、今日だけは涼しいですにゃ。
空から光が見えないです。何も見えないです。雨は降らないでほしいです。雨は苦手にゃ。
……
にゃーん
にゃおーん
エルファンには友達がいます。みんな大好きです。楽しくお話しています。
エルファンには神様がいます。猫神様ですにゃ。でも猫神様……どうして何もお話してくれないにゃ。
願いごとは一つだけなのです。鮭の刺身も、まぐろ味の猫缶も諦めていいのです。
お願い事をもう一度言うにゃ。
……
「ねこぱんちを使う機会がないにゃ」
といっても本当は、使ってはいけないのです。エルファンは約束しました。一年前の戦いのあと、ねこぱんちはもう二度と使わないと、猫神様に誓ったのです。
「ときどき使っているけど、少しだけだから許してにゃ〜」
不謹慎なことを言い出します。誓いを簡単に破るのは彼女の悪い癖です。
「にゃぅ〜」
あまり反省しているようにみえないエルファンでした。
仲間と別れ、エルファンは人気のない方角に進みます。
街外れの小高い丘の、まだひんやりとする地面に座りこむと、彼女のシルエットは闇にまぎれて見えなくなりました。
つぶやきだけが聞こえてきます。
「前の戦いで、みんな傷付きました。散り散りになりました。 最後の光で、ララも……ヴィラも……滅びました」
物言わぬ空に向かって、語りかけます。
「猫神様、教えてにゃ。 お師匠様はどうしてエルファンたちを育てたのかにゃ……」
そこに一匹の猫が姿をみせます。
全身真っ黒のその猫は、闇と同化しているかのようにちらちらと見えたり消えたりしながら、音もなくこちらに歩み寄ります。
「しろさん……じゃないにゃ」
「ごきげんよう」
そう言うと黒猫はあくびしました。
「ヴィラさんの行方をご存知でしたら教えていただけませんか」
エルファンの表情が硬くなります。
「帰るにゃ。エルファンの見えないところに帰るにゃ!」
反論するかと思いきや、黒猫は素直に帰っていきました。とはいうものの、エルファンには大きな悩みが残されました。
黒猫のダーク。
彼が何を考えて行動してるのかは誰にもわかりません。
一つだけわかっていることは、ダークに攻撃されて生き残った者はいないということです。
(しろさんの名前を言っちゃったにゃ。しろさんが狙われる……)
早速、この失態をごまかすための方策を考え始めました。
「にゃぅ……。書くことがないにゃん」
「仕方ないにゃ。見よう見まねの猫ダンスを披露するにゃ」
にゃっ にゃっ にゃっ うにゃっ
にゃっ にゃっ にゃっ
「うにゅぅぅぅ……ぐるぐるする……バタンむぎゅ」
今日の日記はお休みです。
今日は寺院をみてきました。
しばらく前、エルファンが迷いこんで倒れたところです。嫌な思い出がありますにゃ。でも今日は違います。
「どうもこういった所は、落ち着きませんねぇ……」
調査団のひとです。エルファンたちについてきたのです。
にゃふふ……この人たちは、これから起こる悲劇なんて知らないのですにゃ。
「エルファン、また変な妄想したりしないでね?」
……もちろんですにゃ。
「本当に廃墟ですね。いつ崩落してもおかしくありません」
明日にも崩れるのかにゃ? これから入っていくから、もう少し待ってほしいにゃ〜
調査団が動揺しているにゃ。何かあったにゃん?
「ぎゃああああ!」
目の前でゾンビがあばれています。調査団のひとが逃げています。あ、引っ掻かれたにゃ。勢いで転んで、組み敷かれたにゃ。なんか悲惨ですにゃ。
仕方ないにゃ。ミサイルで一思いに爆破するにゃ!
「引っ掻かれたのはエルファンみゃ。大丈夫みゃ?」
「はっ。そうだったにゃ」
話はわかったにゃ。寺院の奥に住んでいるおじいちゃんが、夜な夜な徘徊してあやしげな儀式をおこなっている……で合っているかにゃ?
しろさん、大丈夫にゃ。エルファンがごろごろを披露したら、きっと勝てます。知らないおじいちゃん、覚悟するにゃ。
心の底からそう思いますにゃ。
勝てるといいにゃ〜
というわけで、ごろごろの練習ですにゃ。
ごろごろ〜 ごろごろ〜
その時です。天井からガレキが降ってきました。現れたのは、エルファンの知らない石の生き物ですにゃ。
「ガーゴイルだ! 応戦するぞ、みんな逃げるなッ!」
「エルファン殿、お願いします!」
ごろごろ〜 ごろごろ〜
「……駄目です! コレはもう役に立ちませんッ!」
ごろごろ〜 ごろごろ〜
「や、やっぱり逃げるぞ!」
調査団のひとが現場から逃げようとしています。
わしっ
「ぎゃああああ!」
動きかけた足を反射的につかんでしまいますにゃ。最近、跳びかかるのが癖になったのです。ごめんにゃ。
「エルファン、遊んでいないで応戦しないと」
「はっ。そうだったにゃ」
エルファンは猫神様にお祈りをします。
「おじいちゃんを倒すにゃ」
風が強まると、焚き火の勢いはより一層強まり、猫耳をはっきりと照らします。舞いあがった火の粉で、エルファンは少しだけ煤を被りました。
「エルファンは猫神様を信じるにゃ」
それでも、彼女の胸騒ぎは消えません。その夜は一睡もできませんでした。
建物の中心部に到達した一行に、緊張が走ります。祭壇の陰から現れたのは、年老いた一人の男。彼は呪術士のガラードと名乗りました。
彼がこの寺院の主だというのでしょうか。
「にゃー…」
エルファンの適当な鳴き声を完全に無視すると、彼は獲物を見つけたかのように、かっと目を見開きます。
「その魂、私が貰い受けよう!」
その言葉と同時に、一行の背後から魔物が襲い掛かってきました。ガラードが配置していたのです。二匹の魔物は、まっしぐらに同じ標的に突進します。
一撃。
二撃。
エルファンは転がりました。自分の意志ではありません。地表に叩きつけられたような衝撃が彼女を襲います。
咄嗟に仲間を振り返ると、ガラードが白猫を掴んで離したところでした。仲間のシャンティが銃を連射しますが、あまり利いているようにはみえません。エルファンは地面を転がりながら、猫神様に祈り続けました。
……
……
……
どのくらい時間が経ったのでしょうか。
白猫はこっそり耳打ちします。
エルファンは納得したようでした。危険な作戦ですが、このまま戦い続けると全滅してしまいます。
「……ターゲットロック……ですにゃ……」
ゾンビナイトに全弾命中します。それを最後に、魔物は崩れ落ちました。ガラードは笑いました。
「最後の抵抗を見せて貰ったぞ!」
彼の言う通り、エルファンたちはもう限界でした。
「弱き者は生贄となれ!」
しかし、最後の抵抗はもう一つありました。頭上からガレキが降ってきたことに少し遅れて気付くと、慌てて跳び退きます。
「!?」
ガレキの反対側から、ガラードの罵声が聞こえてきます。
「しろさん、やったにゃ! 凄いですにゃ!」
難を逃れたもう一匹の魔物、ガーゴイルが襲ってきましたが、白猫は迷わずエルファンを盾にしました。
「むぎゅ」
エルファンは力尽きましたが、まだ全滅したわけではありません。今がチャンスです。
「逃げるみゃ!」
奇跡的にも無傷だった調査団員たちは、倒れた彼女らを抱えると一目散に逃げ出しました。
圧倒的な強さの敵を振り切り、何とか逃げてきた一行でしたが、懲りずに再び挑戦することになりました。
「ごろごろ〜 ごろごろ〜」
エルファンは地面を転がっています。その様子をみる度に、調査団の人はどうしようもなく不安になりましたが、これが猫耳族である彼女のやりかたです。
「猫耳族なんて訊いたこともないがなぁ」
よく聞く言葉です。理由は簡単です。都会の人は猫耳族のことを知りません。だから、エルファンは奇妙な目でみられても気にしないことにしています。もっとも、不思議なのはエルファンだけではありません。
はじめの頃は、白猫のしろが人の言葉を話すたびに、彼らは一様に驚いていました。
「そのうち慣れるにゃ」
エルファンは心の底から思います。はじめは驚いたとしても不思議ではありません。それに、世の中には、彼らのまだ知らないことが沢山あります。少しずつ慣れていくしかないのです。
調査団一行は、寺院の崩れ落ちた一角にテントをはることにしました。雲ひとつなかった昼間がそのまま暗くなって、今は星空がみえます。荒れ果てた寺院だからなのでしょうか、夏が近いというのに心なしか肌寒く感じられます。
ずっと空を見上げていたエルファンに近づく影がありました。
「....エルファン?」
ツヴァイさんでした。
「にゃ。少し考えごとしてたにゃ」
少し迷った後、意を決して尋ねます。
「オープンになっても....一緒に...遊んでくれますか?」
「もちろんですにゃ」
即答するエルファンでしたが、聞き慣れない言葉が耳に残りました。
「でもオープンって何にゃ〜?」
「偉い人が.....冒険のしかたを...変更されるのだそうです.....」
「にゃぅ〜 まずいですにゃ。偉い人で思い出したにゃ」
「え?」
旅に出るとき、宿舎の窓ガラスを粉々にしてきたことが悔やまれます。怖くなったエルファンは、あれから一度も帰ることができませんでした。偉い人は、この猫耳にどんな罰を与えるでしょうか?
「にゃぅぅ〜」
頭を抱えるエルファン。
仕方ないので話題を切り替えます。
「........ええと、」
「エルファンは、シャンティ...さん...見なかった?」
「にゃっ? 言われてみれば、シャンティさんがいないですにゃ!」
寺院の主のところから、一緒に逃げ出すところまでは覚えています。途中ではぐれてしまったのでしょうか。
「あの子なら、別の仕事に行ったよ」
調査団の人は知っていました。それなら他の護衛に伝達してくれてもよかったのにと思いましたが、ひとまず安心です。
「たぶんアルバイトですにゃ。安心したにゃ」
こっそり抜け出すのには何か理由があるのかもしれませんが、もちろんエルファンは気にしませんでした。
自由奔放な猫の世界では、みんなそうしています。好きな時に、好きなだけ冒険をします。それ以上でもそれ以下でもありません。
「きっとまた会えるにゃ〜」
あれから結局、手掛かりは何も見つかりませんでした。
寺院の主に会うこともなく調査日程を終えると、一行は街へ戻り解散しました。仲間たちとも、しばしの別れです。皆、それぞれの帰る場所に戻っていったのです。
ところでエルファンはというと……
……
「敷地内に貴女の放ったミサイルが着弾したとの情報です。本来、規則では直ちに拘束されるべきなのですが……」
制服姿の男達です。街にいたエルファンを見つけて、宿舎に連れ戻したのも彼らです。エリアスに所属している冒険者らを取りまとめるのが彼らの役割です。
拘束されないのは、何か特別な理由があるのか、単に面倒を起こしたくないだけか。どちらも可能性があるように思えました。
「……ともかく、宿舎の修繕費用は請求させていただきますよ」
反論しようかとも思いましたが、議論にはあまり興味がなかったので、エルファンは限りなく正直に答えました。
「持ち合わせがないですにゃ」
「ご冗談を。最低でも基本報酬は貰っているでしょう」
「全くないにゃ〜」
実は孤児院へ全部寄付してきたとは、とても言えません。お金の使い道は、言わないほうがいいこともあるのです。
「……わかりました。規定により武装解除します」
アーマー類と武器をすべて没収されてしまいました。アイテムも一つ残らず返却しなければなりません。装備品は個人の所有ではないという考え方から、武装解除はエリアスの権限の一つになっています。こうなっては仕方ありません。
ジャケットも返してしまったので、久しぶりに普段着の姿に戻りました。
「これからどうするにゃん」
「待機です。何もしないで下さい」
そう言い残すと、彼らは足早に去っていきました。
彼女一人だけになりました。やっと一息つくことができます。うんと背伸びできます。エルファンは思いきり伸びをしてみました。
「にゃ〜☆」
普段着がこんなにも過ごしやすいとは思いませんでした。がっちりとした重量感のあるアーマーがなくなるだけで、身体がふたまわりも軽くなったような気がします。
「ごろごろ〜 ごろごろ〜」
床を転がります。板を組み合わせて造られた床は、少しでこぼこして、ひんやりとした感覚が何ともいえません。ただ転がっているだけなのに、妙に懐かしい気分になりました。